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東京高等裁判所 昭和62年(う)551号 判決 1989年10月25日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人杉田雅彦が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官長澤潔が提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらをここに引用する。

所論は、要するに、原判決は被告人が上り坂で発進するにあたりブレーキを確実に操作しなかったため自車を後退させ、後方で停車中のA運転の自動車に衝突させて同車助手席に同乗中のBに全治約一〇日間を要する頸腕症候群の傷害を負わせた旨認定しているが、本件衝突により同女が負傷したと認定できる証拠はないから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、所論にかんがみ、記録及び証拠物を精査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討することとする。

一  関係証拠上明らかな事実は、以下のとおりである。

1  被告人は、昭和六一年一月八日午前一一時三〇分ころ、普通乗用自動車(以下「被告人車」という。)を運転し、浜松市元城町一〇三番地の二先浜松市役所地下駐車場通路から紺屋町方面に向かい発進進行するにあたり、同所が上り坂であるのに、ブレーキ操作を誤り的確なサイド発進をしないで自車を後退させ、後方約二・二二メートルに停車中のA(当時二八歳。以下「A」という。)運転の普通乗用自動車(以下「A車」という。)に衝突させた。

2  右現場の通路は一〇〇分の一一のかなりの急勾配で、舗装面には滑り止めの溝が刻まれており、当時乾燥していた。被告人車は車両重量六五〇キログラムで、同乗者はなく、また、A車は車両重量一一六〇キログラムで、助手席に生後約六か月のえい児を抱いたB(当時二五歳。以下「B」という。)が同乗していた。

3  右衝突の結果被告人車の後部バンパーとA車の前部バンパーが当たり、右各バンパーがそれぞれの車両のボディーと接着するまでに変形した。

4  Bは本件当日の昭和六一年一月八日午後C医院において外科医師C(以下「C医師」という。)の診察を受け、全治一〇日間を要する頸腕症候群と診断され、同月一一日まで四日間通院して治療を受け、同月一三日D外科医院において外科医師D(以下「D医師」という。)の診察を受け、頸部挫傷(頸部症候群)と診断され、同年八月二三日まで通院して治療を受けた。

二  本件衝突によりBが受けた衝撃に関する証拠は、以下のとおりである。

1  衝突時の状況につき、Bは、A車の助手席に浅く腰掛け、子供を自分の胸の方に向けて子供の尻に両手を当てる形で抱いていると、被告人車が後退して来たので、子供がダッシュボードにぶつからないように手を子供の首のところにまわして引き寄せ自分の身体を座席の奥に引こうとしたとき、ドスンと音をたてて被告人車が衝突し、後ろに自分の力が入っていたのか、両手で子供を抱き込むようにして身体が後ろに倒れ、後頭部がヘッドレストに当たった旨を供述している。衝突時の状況について、他の関係者であるAは、オートマチック車を発進しようとしてギヤをドライブに入れ、アクセルに足をかけていると、被告人車が後退して来て衝突し、バーンという音がして、自分の車は心持ち後退した気がするが、自分の身体はショックを感じ、首も身体全体も少し前かがみになった旨を、また、被告人は、衝突のとき、身体がガクンとなる感じがするくらい動いた旨をそれぞれ供述しているのであって、これらは、前記各車両バンパーに生じた変形とともに、Bが衝突時に衝撃を受けたことを裏付けるものであり(なお、被告人の供述のうち、自分の身体がガクンとなる感じがするくらい動いたのは自分が制動措置をとったためであると思う旨言う点は、現に被告人車がA車に衝突し、両車のバンパーに変形が生じていることなどに徴し、採ることができない。)、衝突時の状況に関するBの供述は措信できるものと認められる。

2  被告人車が後退途中で一度停止したか否かにつき、被告人は、発進に失敗して後退し始めたので制動措置をとり、五〇センチメートルくらい後退したところで一度止まり、再び発進しようとしてまたもや失敗し、後退して衝突した旨を供述しているのに対し、A及びBは被告人車が途中で一度停止することなくそのまま後退してきて衝突した旨を供述している。被告人車が途中で止まり、再度発進に失敗したという事実はそれがあればA及びBにとって印象的な出来事であるとともに被告人が二度にわたって過失を犯したという意味で常識的には被告人にとって不利益であってその反面Aらにとって有利であると考えられ得るものであることに徴し、右事実を明確に否定するA、Bの供述の信用性が高いのに対し、車間距離が約二・二二メートルあったのであるから、五〇センチメートル後退したところで一度停止したのであれば、再度発進に失敗したときも同様に制動措置をとって衝突を回避するのが自然であるのに(被告人が一度停止した地点が被告人のいう五〇センチメートルのところでなくても、当初の車間距離二・二二メートルの二分の一である一・一一メートル未満のところであれば同じことがいい得る。)、なぜそうせずに衝突したのか理解し難いことなどに徴し、被告人の供述の信用性は低いといわなくてはならない。但し、衝突によるA車に対する衝撃の程度の点においては一旦停止したという事実が被告人にとって有利である(後記木村鑑定書九頁参照。)ので、ここでその事実がなかったと断定することなく、両方の場合について更に考察する。

3  A車の受けた衝撃加速度について、<1>当審で取調べた鑑定人木村康は、同人作成の鑑定書(検察官作成の平成元年五月八日付及び同年九月一三日付各電話聴取書により訂正されたもの)及び証言(以下両者を併せて「木村鑑定」という。)において、被告人車が停止しなかった場合(以下<a>と付記する。)と一メートル後退した地点で一度停止した場合(以下<b>と付記する。)のそれぞれにつき、被告人車の衝突時の速度は、本件における両車間の間隔二・二二メートル、勾配一〇〇分の一一の条件下で、路面のころがり抵抗係数を〇・〇二とすると、<a>時速七・一二キロメートル、<b>時速五・二八キロメートルであり、この数値と各車両の質量等の数値に基づき算出すると、A車の有効衝突速度は<a>時速二・五一キロメートル、<b>時速一・八六キロメートルとなり、反発係数を〇・二、衝突時間を〇・二秒とすると、A車の受けた衝撃加速度は、結局、<a>〇・四二七G、<b>〇・三一七Gとなる、としている。また、<2>鑑定人松野正徳は、同人作成の鑑定書(同人作成の平成元年六月一二日付書面により訂正されたもの)及び証言(以下両者を併せて「松野鑑定」という。)において、<c>被告人車が停止しなかった場合、被告人車の衝突時の速度は、前記と同一の条件下で、ころがり抵抗係数を〇・〇二とすると、時速七・一二キロメートルである(この数値は、木村鑑定<a>と一致する。)が、<d>A車の前部バンパーに生じた永久変形量を基礎として算出する手法によるとき、写真から右変形量は一六・六ミリメートルと推定され、これからA車の有効衝突速度は時速一・七五キロメートル、A車の受けた衝撃加速度は〇・五二Gと推算され、右有効衝突速度から被告人車の衝突時の速度は時速四・九五キロメートルと推定され、この数値は被告人が後退途中で一度制動措置をとったことと符合するという。

いずれの鑑定においても、その前提となる数値は概数であり、また算出にあたっていかなる係数値を採用するかについて絶対的な基準がないことが各鑑定書自体により明らかであるが、各鑑定は右のような制約を含むことを留意する限り有益な証拠資料であることはいうまでもない。

三  そこで、Bが本件衝突により原判示傷害を負ったか否かにつき検討する。

1  木村鑑定は、<イ>本件衝突によりA車が受けたと推定される衝撃加速度〇・四二七Gあるいは〇・三一七Gは人体実験による鞭打ち症候群発症の限界とされている3Gにはるかに及ばない数値である、しかし、<ロ>本件においてBの頸腕症候群が詐病であると判断する根拠はなく、また、C医師、D医師の診断経過、基準に誤りはないので、Bが不安定な姿勢であったこと及び心因性要因を考慮し、Bが本件事故により頸腕症候群の傷害を負ったと思料するとしている。これに対し、松野鑑定は、被告人車の衝突速度が時速四・九五キロメートルであって通常人の歩行速度時速四・七九キロメートルに近く、衝撃加速度が〇・五二Gにすぎないとしたうえ、各種手法により生体工学的検討を行い、その結果いずれもBの傷害発生を否定することは矛盾はないとし、本件衝突によりBが原判示傷害を負うことは不可能であるとしている。

いずれの鑑定によってもA車の受けた物理的衝撃は軽いものであったと認められ、現にA車の発進の準備をしていたAは受傷していないのであるが、各人の体質等の素因、衝突時の乗車位置、姿勢、衝撃による姿勢の崩れ、座席の背もたれ、ヘッドレスト等車内設置構造物と身体との衝突等も受傷の有無、程度に関係し得ることを考えると、人体を模した人形(いわゆるダミー)あるいは衝突を予期したうえそれに対処する心構え及び身構えのできている人(いわゆる志願者、ボランティア)などのように不意に事故に巻き込まれた生身の人間と同一であるとは言い難い物体あるいは人体について行われた実験に基づいて衝撃力が一定の数値未満の衝撃によって人が受傷することはあり得ないと断定することは、身体に加わった物理的衝撃の大小のみにより直ちに複雑で個性のある生きた人間の受傷の有無を判定しようとするもので、到底正当とは思われない。

2  更に他の関係証拠を検討する。

(一)  Bは、原審証言において、<1>衝突時の状況につき、前記のとおり、「私は子供を抱いて助手席に浅く腰掛けていた。被告人車はいきなり後退して来てあっという間に衝突した。私は、子供がダッシュボードにぶつからないように両手で子供を抱き込むようにし、後ろの方に避けようとして思わず後ろに力が入ったのか、衝突したときに子供を抱き込んだまま後ろに倒れ、そのとき後頭部がヘッドレストに当たった。被告人は涙ぐんでただ『すみません。すみません。』と言うだけであり、私の安否を問うようなことはしなかった。」旨、<2>痛み等の自覚、受診経緯につき「その日の午後二時ころ母方で遅い昼食を食べようとして茶わんとはしを持ったときなんとなく右首筋から肩にかけて重い感じがした。左側の方にはそういう感じはなかった。そのときは痛みはなかった。事故のせいかなと思い、病院にかかるのに国民保険と事故保険のどちらにしたらよいか被告人の考えを聞こうとして被告人に電話すると、被告人が警察に事故の届出をしたと言うので、私が事故保険でかかると言ったところ、保険屋さんと相談するということであり、その後保険屋の女性から電話がかかってきて、『バンパーがへこんだくらいで傷をするのですか。』と言っていた。当日午後三時ころ、子供が生れたとき産婦人科にかかったC医院に行き、外科の診察を受け、二・三日C医院に通ったが、関節を悪くしてD外科医院にかかっている母を私が毎朝付き添って行っており、二つの病院を回るのは大変なので私もD外科医院にかかることにした。事故の日の夜から首が痛くなり、特に枕をして寝返りをうつと痛むのでその日は枕をしないで寝た。重い感じやだるい感じは二か月くらいは常にあったが、天気の良い日や梅雨明け後はさほど感じなくなった。首の痛みは一か月くらいあり、動作をするとき何かが張っているという感じで、長時間同じ姿勢を続けたり運動をすると痛くなる。一か月くらい夕方になったりするとしびれ、首のしびれが治ったと思うと指がしびれたこともある。私はホステスをしていたが、同じ姿勢を長時間とるので肩が張ったりするし、気分的にいやなので店を一か月くらい休み、その後辞めた。交通事故は今回が初めてであるし、それ以前は肩が張るようなこともなかったので、この交通事故のためだったと思う。」旨、<3>被告人側の対応につき「事故後一〇日くらいして保険会社の田口実と被告人の会社の上司の人が来て『どうしてほしいのか。』と聞くので、『休業補償、バンパーの修理代、医療費がほしい。』と言うと、『被告人に伝える。』ということで帰った。二日くらいして田口から『被告人が人身事故を認めないと言っているので払えない。』と言ってきた。その後バンパー修理代は入金したようであるが病院代は『裁判が終っていないので払えない。』と言っている。被告人は人にぶつけておいてこんな裁判するのかと思う、また電話をかけても出てもくれないし、警察で会っても知らん顔である。」旨供述している。

(二)  C医師は、原審証言において、「昭和六一年一月八日Bを問診し、首のレントゲン写真を撮った。頸部捻挫があるかも知れないが、レントゲン写真に異常はなく、はっきりした所見がつかみにくいので、投薬して経過を見ることにし強力な消炎鎮痛剤投与と血管注射、首の湿布をした。翌九日、首の運動制限の有無を検査したところ、首を前屈させると『少し痛い。』と訴え、スパーリングテスト(頭頂に両手を重ねて上から下に押す検査方法)で、右首の根部に疼痛を訴えた。反射検査、顔面知覚検査で異常なく、手の震え、手の知覚の左右の違いはなく、また、眼球震盪もなかった。起立試験をすると右足では正常であったが、左足ではふらついた。これは脳の血流障害の可能性を示すが、医師の前であがっているためかも知れないので断定はできない。右肩の張りと右手のだるさの自覚とスパーリングテストによる結果とが一致したので、軽度の鞭打ち症すなわち頸腕症候群と診断した。他の検査において異常がなかったことはこの診断の妨げとなるものではなく、むしろ、他の異常があるときは直ちに入院の必要があることになる。その日鎮痛剤を血管注射し、頸部に湿布を施した。」旨供述している。

D医師は、原審証言において、「昭和六一年一月一三日Bを初診した。レントゲン写真では、頸椎の骨にずれ等の異常は認められなかった。首をおさえると痛みを訴えた。頸椎の両側を圧迫すると痛み、特に右側の痛みを訴えた。首の前後左右屈曲、回転の運動制限検査で、左に曲げると『右肩が突っ張る。』と訴えた。圧痛、首の運動障害の検査結果が頸部挫傷の症状と一致したのでその旨診断した。詐病かどうかはおした瞬間に痛がるか、間を置いて痛がるか、軽くおしても痛がるか、強くおしてもさほど痛がらないかなどにより見分けることができるのであって、Bの場合詐病ではないと確信している。同月二七日『昨日から右手の親指と人差指にしびれがきて痛い。』と訴えるのではけで検査し、訴えと表情などにより感覚が鈍くなっていると認め、右上肢神経麻痺が発症したと診断した。」旨供述している。

(三)  木村鑑定人は、証言において、右両医師の診断につき、「両医師はスパーリングテスト、運動制限検査その他各種検査をし、症状をよく観察しており、その診断は信頼がおける。なお、運動制限の判断の根拠は、まず、患者の自覚症状であるが、それだけではなく、医者が首を回すと普通に回らない、すなわち、運動範囲が狭くなっているという医師の所見であり、運動制限があるときは首や肩の筋肉が強ばることがそこに当てている医師の手により感知できるので、嘘を言ってもわかる。」旨を、Bの受傷の可能性につき、「Bは、証言の中で、被告人車が後退して来るので、子供をかばって後方に退避しようとしているとき、被告人車が自分の乗っているA車にぶつかって、そのはずみで自分が後ろに転んで頭を打った旨言っている。例えば、自動車が非常にスピードを上げて脇を通り過ぎ、歩行者がそれに驚いて転倒して頭を打って傷害を負った場合には、衝突しなかったとしても、自動車が傷害の一つの原因を作ったと判断するように、Bの場合において、衝撃そのものは弱くても、子供をかばい後ろに退避しようとして不安定な姿勢になっているときに本件のような軽い衝撃によって倒れて頭を打ち、その結果両医師のいうような傷害が発生することは十分ありうるのであり、この場合、衝突が右傷害の原因を作ったと判断できる。また、本件においてBの詐病を疑う状況はない。」旨供述している。

3  以上の証拠関係に基づき考察するに、衝突による頸部捻挫、頸部挫傷の頸部損傷には、頭頸部の鞭打ち運動を直接の契機とする本来の鞭打ち症のほかに必ずしも頭頸部の鞭打ち運動を伴わずに生じるものとがあり得、時にこの両者は厳密に区別されることなく鞭打ち症と言われることがあるところ、Bの前記供述自体からは、本件において同女の頭頸部の鞭打ち運動が起き、これを直接の契機として頸部捻挫、頸部挫傷等の傷害が生じたというような受傷の経緯の細部は確定し難いのであるが(同女にとって衝突は思いがけない一瞬の出来事であって衝突時の姿勢及び頭部、躯幹部等身体の各部の動きを前記供述以上に正確に再現できないのはやむを得ないであろう。)、かなり急な上り坂において前方に停止していた車両が前進すると思っていたのに突然後退して来たのを見て、抱いていたえい児をかばうために慌てて後ろの方に退避しようとして力が入り不安定な姿勢になったとき、衝突されたはずみで転倒し、後頭部をヘッドレストに打ち当てたような場合、あるいは同女が右のような状況のもとで瞬間的に急激かつ不自然な動きをしたため頸部に無理な力が加ったような場合には、その結果として、頸部の鞭打ち運動を伴うにせよ伴わないにせよ、頸部捻挫、頸部挫傷等の傷害を負うことは十分あり得ることであると考えられる。ところで、右C医師、D医師の各証言は、それぞれC医師作成の外科外来日誌、診療報酬明細書及びD医師作成の診療録により裏付けられており、また、木村鑑定に照らして検討しても、各医師の診断、治療に疑問な点はなく、更に、それぞれ独立になされたものであるのに診断の結果が重要な点で合致ないし符合しており、いずれも措信できると認められ、そうして、Bの証言は、内容が具体的かつ詳細であり、同女にはことさら大袈裟に痛み等の症状を申し立てたり、過大な賠償を求めるような態度はうかがわれず(後に実際に修理させたところ代金五万円は掛からなかったA車のバンパー修理について暴力団員であるAが事故の現場で代金一五万円云々と言った事実が認められるが、被告人及びその保険会社の係の者の申入れを受けてAは一切手を引き、交渉は、被害者側Aの内妻であってホステスをしていたとはいえ交通事故に初めて巻き込まれた年若い女性であるB本人一名のみ、加害者側交通事故の賠償処理を専門に担当している保険会社の係の者及び被告人の上司の間で行われており、右バンパーの修理代金は実際に生じたものが修理業者から被告人の保険会社に対し請求されているのであって、Bにおいて暴力団を背景にするなどして不当に多額の金員を支払うよう被告人に対し迫っている状況は全く認められない。)、転院のいきさつを見ても不自然な点はなく、C、D両医師の診断により裏付けられていることなどに徴し、措信できるものと認められる。その他、所論にかんがみ、証拠を精査しても、Bの受傷が詐病であることを具体的に疑わせるに足りる状況は認められない。そうしてみると、右に掲げた各原審証言及びこれを裏付ける関係証拠によれば、原判示Bの受傷の事実は優に肯認することができるというべきである。

四  以上のとおり、所論は採用できず、原判決に所論の指摘する事実の誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、同法一八一条一項本文を適用してこれを全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 内藤丈夫 裁判官 藤井登葵夫 裁判官 本吉邦夫)

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